6月25日 大阪ドーム 近鉄−ロッテ 15回戦
2002年6月26日 1勝1敗で迎えた3連戦の3戦目。昨年のリーグチャンピオン、近鉄にはどこか余裕の表情が見られた。
ローズ中村の大砲を並べたその打線に加えてパウエル、岩隈を軸とした投手陣もよく機能し5月から6月にかけて破竹の10連勝。その後の成績も3勝2敗。春先の出遅れを取り戻しつつあり、ペナントの興味はもはや西武とのマッチレースに絞られつつあった。
対するロッテは足掻いていた。
高評価の投手陣を支える両輪、黒木と小野が開幕から出遅れ、期待の若手投手、加藤と渡辺俊介も炎上続きと台所は火の車。前日に加藤が復調の兆しを見せてはいたもののタフネス右腕、ミンチーに頼りきるローテーション。
両外国人が揃って沈没した打線は前日から大幅な入れ替えを試みて必死の打開策を打ち出していた。
試合は両外国人の投げ合いから始まった。
近鉄の先発はバーグマン。ヒット性のあたりをバックに助けられて1番サブロー、2番小坂を打ち取ると、福浦和也に内野安打を許すも無失点。コントロールにばらつきは見られるものの上々の立ち上がりといって良い。
それに対するロッテ先発ミンチー。この日の出来は素晴らしかった。彼にしては珍しく140キロを超えるストレートにカットボールが冴え、打者のタイミングを外すスローカーブが決まる。ルーキー捕手、辻の必死のリードも効を奏していた。
ゲームは中盤まで0行進が続く早いテンポの試合となる。しかし、その内容は対照的であった。ミンチーに手も足もでずノーヒットの近鉄に対し、ロッテ打線は2回、2死1,2塁。3回、無死2塁。4回、2死2塁。5回、2死1,2塁。ことごとくチャンスを潰す拙攻。勝利の女神を掴みきれない三塁側ベンチに焦りが見え始める。
ゲームが動いたのは6回だった。
5番D・メイの四球から始まり、堀幸一の送りバント、そして7番大塚明のレフト前ヒットで1,3塁。ノーヒットノーランすら視界に入ってきたミンチーを援護してやりたい。そんな空気が8番伊与田に乗り移ったかどうか。
しかし、広島からやってきた25歳の弾いた打球はあえなくサード中村のグラブの中へ。ショート阿部から一塁吉岡へ白球が転送される。ところがそこに上がったのは溜息と歓声ではなく怒りの声だった。ファースト吉岡の足がキャンバスから離れていた、顔を真っ赤にして主張する伊予田。しかし判定は覆らずアウト。最悪の結果にロッテベンチの士気は下がる。これでも点が取れないのか・・・
そんなムードに勝利の女神は遂に近鉄に媚を売り始める。
伏兵、的山のレフトへのソロホームラン。初ヒットによる得点に、誰よりもミンチーの気持ちにひびが入ったのは明らかだった。
一度傾いた流れは止まる事はない。いや、近鉄打線はその流れに乗る術を、この時確かに知っていた。
7回裏、先頭バッターの水口がヒットで出塁すると3番ローズには四球。ミンチーはその流れに飲まれていた。スローカーブを操る指に力が入らない。コントロールが定まらない。続く中村紀にセンター前ヒットを打たれたところで試合の行方は決まったかに思われた。その時、意外なところでゲームが中断する。
必死にミンチーの手綱を取っていた捕手、ルーキーの辻がローズの打席時にファールボール当てた股間の痛みを訴えて治療のためベンチに下がる。
正捕手清水の負傷で回ってきた機会。それを生かそうとなりふりかまわぬ辻の思いが、ナインに、優柔不断な勝利の女神に伝わったのだろうか。次打者、川口が放った打球はショートバウンドでファースト福浦のミットへ。バックホーム、そして1塁へ転送、打球判断を誤った1塁ランナー中村も2塁で刺される。
トリプルプレー。
呆然とする1塁側ベンチ。笑みが止まらない3塁側。
「投手にとって最高の友達はダブルプレーだと思っていたが、まさかトリプルプレーとはね」
崩れかけていたミンチーを立ち直らせるに充分な効果があった事は想像に難くない。
野球は流れのスポーツであると言われる。これに乗っていけるかどうかで勝者が決まると言っても過言ではない。そんな流れに乗っていきたい選手がいた。
4番立川。
「未完の大器」そう呼ばれて9年目を迎えた彼にとって4番抜擢は最後にして最大のチャンスだったと言って良い。それが、ここまでことごとく凡退。打率は身長以下にまで下がっていた。
8回のマウンドに上がるは近鉄の切り札、大塚。一五〇?を超えるストレートで流れを断ち切ろうというベンチの思惑が見えるその采配。その初球。
立川の、笑顔。
大塚の、悔恨。
トリプルプレーは、確かに流れを作り、それに乗った立川は最上の結果を出した。それはルーキー辻の気迫が、ファースト福浦の好判断が生んだホームランと言っても良い。
あれだけ苦しんで取れなかった1点が、1球で取れた。
あれだけ耐え抜いてやらなかった1点が、1球で取られた。
その流れに抗するには9回にマウンドに立った近鉄、3年目の宮本は若すぎた。1死1,2塁のピンチを作り降板。続く2年目の山本が、怪我からの復帰後思うような打撃が出来ていない小坂誠に勝ち越し打を打たれたのも、流れというものに対する経験の差から来るものだったのだろう。
9回裏はロッテの守護神、小林雅英がピンチを招くも、優柔不断な女神の首根っこを捕まえてねじ伏せる。最後の打者となった中村紀は高めの変化球を見逃し三振。
「あかん。下手くそ」。
その時の中村の台詞は誰に向けられたものだったのか。判定の一定しない審判に対する苛立ちか。はたまた自らの判断ミスにより無死満塁の好機を逃し、最後にそれを挽回できなかった自らに対する嘲りか。
近鉄にとっては小さな1敗である。しかし、野球に存在する流れというものの重さを、前年度のチャンピオンにあらためて見せ付けた、象徴的な試合であった。
ロッテにとっては大きな1勝である。若い選手が自らの力で流れを引き寄せて勝利した事はこれからの80試合の選手起用を左右すると言って良い。
サッカーの盛り上がる中で行われた一戦。その一戦は両チームの今後を決定する大きな一戦だったのかもしれない。
ローズ中村の大砲を並べたその打線に加えてパウエル、岩隈を軸とした投手陣もよく機能し5月から6月にかけて破竹の10連勝。その後の成績も3勝2敗。春先の出遅れを取り戻しつつあり、ペナントの興味はもはや西武とのマッチレースに絞られつつあった。
対するロッテは足掻いていた。
高評価の投手陣を支える両輪、黒木と小野が開幕から出遅れ、期待の若手投手、加藤と渡辺俊介も炎上続きと台所は火の車。前日に加藤が復調の兆しを見せてはいたもののタフネス右腕、ミンチーに頼りきるローテーション。
両外国人が揃って沈没した打線は前日から大幅な入れ替えを試みて必死の打開策を打ち出していた。
試合は両外国人の投げ合いから始まった。
近鉄の先発はバーグマン。ヒット性のあたりをバックに助けられて1番サブロー、2番小坂を打ち取ると、福浦和也に内野安打を許すも無失点。コントロールにばらつきは見られるものの上々の立ち上がりといって良い。
それに対するロッテ先発ミンチー。この日の出来は素晴らしかった。彼にしては珍しく140キロを超えるストレートにカットボールが冴え、打者のタイミングを外すスローカーブが決まる。ルーキー捕手、辻の必死のリードも効を奏していた。
ゲームは中盤まで0行進が続く早いテンポの試合となる。しかし、その内容は対照的であった。ミンチーに手も足もでずノーヒットの近鉄に対し、ロッテ打線は2回、2死1,2塁。3回、無死2塁。4回、2死2塁。5回、2死1,2塁。ことごとくチャンスを潰す拙攻。勝利の女神を掴みきれない三塁側ベンチに焦りが見え始める。
ゲームが動いたのは6回だった。
5番D・メイの四球から始まり、堀幸一の送りバント、そして7番大塚明のレフト前ヒットで1,3塁。ノーヒットノーランすら視界に入ってきたミンチーを援護してやりたい。そんな空気が8番伊与田に乗り移ったかどうか。
しかし、広島からやってきた25歳の弾いた打球はあえなくサード中村のグラブの中へ。ショート阿部から一塁吉岡へ白球が転送される。ところがそこに上がったのは溜息と歓声ではなく怒りの声だった。ファースト吉岡の足がキャンバスから離れていた、顔を真っ赤にして主張する伊予田。しかし判定は覆らずアウト。最悪の結果にロッテベンチの士気は下がる。これでも点が取れないのか・・・
そんなムードに勝利の女神は遂に近鉄に媚を売り始める。
伏兵、的山のレフトへのソロホームラン。初ヒットによる得点に、誰よりもミンチーの気持ちにひびが入ったのは明らかだった。
一度傾いた流れは止まる事はない。いや、近鉄打線はその流れに乗る術を、この時確かに知っていた。
7回裏、先頭バッターの水口がヒットで出塁すると3番ローズには四球。ミンチーはその流れに飲まれていた。スローカーブを操る指に力が入らない。コントロールが定まらない。続く中村紀にセンター前ヒットを打たれたところで試合の行方は決まったかに思われた。その時、意外なところでゲームが中断する。
必死にミンチーの手綱を取っていた捕手、ルーキーの辻がローズの打席時にファールボール当てた股間の痛みを訴えて治療のためベンチに下がる。
正捕手清水の負傷で回ってきた機会。それを生かそうとなりふりかまわぬ辻の思いが、ナインに、優柔不断な勝利の女神に伝わったのだろうか。次打者、川口が放った打球はショートバウンドでファースト福浦のミットへ。バックホーム、そして1塁へ転送、打球判断を誤った1塁ランナー中村も2塁で刺される。
トリプルプレー。
呆然とする1塁側ベンチ。笑みが止まらない3塁側。
「投手にとって最高の友達はダブルプレーだと思っていたが、まさかトリプルプレーとはね」
崩れかけていたミンチーを立ち直らせるに充分な効果があった事は想像に難くない。
野球は流れのスポーツであると言われる。これに乗っていけるかどうかで勝者が決まると言っても過言ではない。そんな流れに乗っていきたい選手がいた。
4番立川。
「未完の大器」そう呼ばれて9年目を迎えた彼にとって4番抜擢は最後にして最大のチャンスだったと言って良い。それが、ここまでことごとく凡退。打率は身長以下にまで下がっていた。
8回のマウンドに上がるは近鉄の切り札、大塚。一五〇?を超えるストレートで流れを断ち切ろうというベンチの思惑が見えるその采配。その初球。
立川の、笑顔。
大塚の、悔恨。
トリプルプレーは、確かに流れを作り、それに乗った立川は最上の結果を出した。それはルーキー辻の気迫が、ファースト福浦の好判断が生んだホームランと言っても良い。
あれだけ苦しんで取れなかった1点が、1球で取れた。
あれだけ耐え抜いてやらなかった1点が、1球で取られた。
その流れに抗するには9回にマウンドに立った近鉄、3年目の宮本は若すぎた。1死1,2塁のピンチを作り降板。続く2年目の山本が、怪我からの復帰後思うような打撃が出来ていない小坂誠に勝ち越し打を打たれたのも、流れというものに対する経験の差から来るものだったのだろう。
9回裏はロッテの守護神、小林雅英がピンチを招くも、優柔不断な女神の首根っこを捕まえてねじ伏せる。最後の打者となった中村紀は高めの変化球を見逃し三振。
「あかん。下手くそ」。
その時の中村の台詞は誰に向けられたものだったのか。判定の一定しない審判に対する苛立ちか。はたまた自らの判断ミスにより無死満塁の好機を逃し、最後にそれを挽回できなかった自らに対する嘲りか。
近鉄にとっては小さな1敗である。しかし、野球に存在する流れというものの重さを、前年度のチャンピオンにあらためて見せ付けた、象徴的な試合であった。
ロッテにとっては大きな1勝である。若い選手が自らの力で流れを引き寄せて勝利した事はこれからの80試合の選手起用を左右すると言って良い。
サッカーの盛り上がる中で行われた一戦。その一戦は両チームの今後を決定する大きな一戦だったのかもしれない。
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